ひとりぼっちのソユーズ(Web版)を読んで。

この作品に出会うきっかけとなったのが、ある記事のリツイートからでした。

 

その記事のタイトルは『アニメ化を断った話』

リツイート主さんが、可哀相な話だと嘆いていたので、気になってリンクを開いてみた。

 

どうやら、書籍も出していらっしゃる小説家さんがアニメ化を断った話のようだというのが冒頭から読み取れた。なかなかに感情が先走り、少し読みにくいながらも臨場感があって、面白い文章を書かれる方なのだろうと推察できる文だった。

読むにつれ、作者さんの焦燥感や焦り、懊悩が伝わってきて、これは人の心を惹きつけるモノをもっているなと内容の暗さに反してとてもキラキラしたものを感じ、作品を読みたいという強い欲求に駆られた。

 

どうやら、WEB版で短いながらも一通り読めるようだと知り、急いで読みに行ったのが『ひとりぼっちのソユーズ』だ。

 

一言でいうと、とても綺麗でよく出来たお話だった。

 

以下はネタばれを含みますのでご注意を。あくまで個人的な感想なので、気分を害したらすみません。

 

 

 

 

物語は大まかに3トラックに分かれていて、主人公は日本人の「僕」。彼の視点でゆっくりと物語は進んでいく。

ヒロインは物語を通して2人登場する。トラック1はユーリヤ。

 

彼女がこの後の重要なキーパーソンなのだが、正直なところ、見た目が良いというところ以外はあまり魅力を感じられない女の子だった。Web版なのでなにぶん情報が最低限で、二人のエピソードが最低限まで削られているからだと思う。そうでなければ、おそらく主人公はかなりのマゾヒストなのだろう。可愛い女の子に自分だけ仲良くされたらデレデレしてしまうのも判る気がするがw

 

1では、主人公とロシア人と日本人のハーフのユーリヤの日常が描かれている。

ユーリヤのお父さんが宇宙関連の仕事をしていて、彼女の夢は宇宙飛行士。主人公はユーリヤと宇宙に行きたいと願うようになる。しかし、歳を経るにつれ二人は段々距離も心も離れていき、とうとうある日、決別をしてしまう。

 

ここは本当に辛くて、読んでしまうのを止めようかと思う程だった。この作者さん悲しいシーンを書くのが上手すぎる。ヒステリックな女性の雰囲気をよく掴んでいて、身近にこんな女性がいて辛い思いしたことあるんじゃないかと疑ってしまう。

 

ある満月の日、二人は偶然出会い、今までの決別がなかったかのように和解する。ユーリヤは主人公に夢を語り、主人公はそんなユーリヤと共にいたいという気持ちを強くする。そして、主人公は宇宙飛行士になる夢を叶える。彼女と共にいくという約束を果たすために。

 

清涼感の残る終わり方。二人の関係が恒星と衛星に例えられていて、何ゆえにここまで深い絆を結ぶに至ったかがちょっと不足している気がするも、魅力的で続きが気になって仕方なくなる。スプートニク(衛星)って男の子が呼ばれてるのが可愛いし、いちいちネーミングセンスがずば抜けて良い。作者さんの語彙選びのセンスの良さがとにかく光ってる。ユーリヤのアイデンティティの問題も巧みに織り込まれていて、よく読むと結構テーマが重い。起承転結でいうと、ちょっと長めの起だけど、しっかり読むとこの後がかなり面白い。

 

トラック2のヒロインはソーネチカ。彼女は月で生まれた最初の人類として書かれている。この女の子の特殊性がとにかく長々と書かれていて、彼女がいかに魅力的で特殊で、そして孤独かがトラック2のメインテーマなのではと思われる。

月の重力に慣れてしまっているソーネチカは、地球の重力に耐えることができない、両親は死に、次々と宇宙飛行士たちが地球に帰って入れ替わるなか、彼女だけは月の重力に囚われ続ける。特殊な訓練や医療技術を以ってしても長く掛かることは致し方なく、主人公はそんな孤独なソーネチカに寄り添い続ける。しかし、主人公はいつか地球に帰らなければならない。彼もまた地球の重力に囚われた人だからだ。ソーネチカとも決別してしまった彼だが、今度は諦めずまた月を目指す。リハビリを経て月に戻った主人公は、宇宙ステーションから行方不明になったソーネチカを探し出し、二人は和解する。そして数年後、彼女は夢にまで見た地球へと帰還する。

 

ユーリヤとソーネチカの共通点が多く、パラドックスの世界かな?と思わせられる。月という特殊な空間での圧迫感、閉塞感、地球への憧憬、ソーネチカの孤独感がユーリヤと重なってとにかく切ない。主人公、良い奴だけど全体的に「動」が少ない。良い意味で凡庸だからこそ、ソーネチカと寄り添えたのかな。気の強い美少女好きね……。

最後の地球に降り立つシーンはとにかく感動ものだし、月から地球が見えるポイントで語らう二人は幻想的でとにかく美しいし、想いを伝え合った瞬間はとても胸が熱くなった。特別修飾語が多いわけではないのだが、はっきりと情景が浮かぶ文章は素晴らしく、特に感情の起伏を描いているシーンに至っては臨場感が半端ない。きっと豊かな感受性を持った人なのだなと感じた。トラックを通して2はとにかく名作。

 

トラック3は発展した月で行われる新たな試み。地球外生命体とのコンタクトの可能性から始まる。主人公はかなりの高齢となって、宇宙飛行士ではなくなってはいたが、引退してもなお宇宙開発に関わっていた。ソーネチカとの関係も良好ではあったが、相変わらず地球は利権をめぐって争いが続き、月も発展と共に問題が増えてきていた。

そんな中、未知の生命体からのメッセージを受け取った人類は、その暗号を解き明かす。しかしその内容は主人公にとって思いがけないものだった。そこから、主人公の大いなる戦いは幕を開ける……。

 

最初はなにを書いてるのか正直わからなかった。所々に入る過去の回想も、主人公おじいちゃんになったし、ちょっとセンチメンタルになっちゃったのかな?ぐらいに思っていた。結論から言えば、全部伏線だった。

トラック1も2も、この終末に向かうために準備された土台だったのだと知った瞬間の鳥肌が半端ない。シュタインズゲートファンなら多分心を掴まれるであろう、伏線回収に次ぐ伏線回収。ちょっと助長な気もしたが、必要な気もして、とにかく続きが気になってどんどん読んでしまった。何気なく読み始めたのが深夜の2時、読み終わったのが早朝の6時。完全に徹夜してしまった。

 

途中の海のシーンは、主人公に感情移入しすぎて泣いてしまった。だから、辛いシーンかくの上手すぎるんだって……、辛いシーンからの救済で心の整理がつかない。とにかく美しいし、ユーリヤが魅力的で物語りを通して初めてユーリヤに恋しそうになった。

最後はとにかくハッピーエンドであることを心から喜んだ。この流れならバッドエンドでもおかしくないと思ってたから、めちゃめちゃ嬉しくてソーネチカのことも一段と好きになったし、黒猫ちゃんもめっっちゃ好きになった。というか、登場人物全員、全てを愛せる気がした。

 

文章がちょっと癖があるので、躓く人も多いと思う。トラック1だけだと物足りないので、正直三冊に分けようと決めた編集者と出版社の正気を疑ってしまった。

そりゃあね、奮いませんよ。トラック3まで一気読みしてこその魅力がこの物語にはあるし、少なくともトラック2までは出すべき。1はとにかく伏線だから、楽しくなってくるのは2からだから!!序章だけでこの物語は語れないし、映像作品にしたら、監督しだいでめちゃめちゃ良作になると思う。

でも、採算がとれるかはまた別の問題なんだろうな。

原作が売り上げ奮わなくて、しかも有名監督も落とせないってなると、ネームバリューが無さ過ぎて、劇場版はリスキーすぎる。編集者もボランティアじゃなくて営業さんだから、どんなに良い商品も買ってくれる人がいなかったらどうしようもなくなってしまう。

だからこそ、人間的に誠実で魅力的な人で居てほしいと思うのではあるが。商品を床に投げつけて踏むような真似はしないで欲しいし、誠実に向き合って欲しいと思ってしまう。せめて、自分の関わったものには誇りを持って欲しい。失敗だったとしても、自分の心の中でそっと嘆いて次につなげて欲しい。

しかし、一方で、この騒動があったからこそ私はこの素晴らしい作品に出会うことができた。何がどう転ぶかは本当にわからない。

 

とにかく気持ちが溢れすぎて、文章に残さずにいられなくなって、こんな朝からしっかり書いてしまった。

出来れば作者様にはこれで心を折らずに、素敵な文章を書き続けて欲しいし、短編の読みきりとか出たら購入したい。というか購入する。購入させてください!!