備忘録~渡り廊下~
昔のはなしである。
以前の記事に、1階のトイレ近くに渡り廊下があるという内容に触れたものがある。
今回はその渡り廊下での出来事である。
その日、夕方頃だっただろうか。母親はいつも仕事で遅く、父親は自分の部屋に引き込もり、祖父はリビングで深酒をして寝込んでおり、祖母は買い物で出かけていなかった。私は電気をつけてもなお薄暗い玄関口から、トイレの手洗い場へと移動していた。
1階から2階へ通じる廊下は吹き抜けのようになっていて、天井が高い。昼間は天窓から多少光が入るが、夕方になるとそれもなく、ひたすらに薄暗い。
少しこわかった私は、手洗い場の電気をつけようと足を速めていた。
どうにかトイレの手洗い場に到着し、さて、電気をつけようという段になって、ふと目の端に何かが過ぎったように感じて、私は自分の右側を見た。
真っ白い人がそこにいた。
いや、人なのだろうか。顔には目などは無く、骸骨に近い穴があるだけ。しかし腕などは骨ではなく、白くぼんやりとしたもので覆われていた。それは此方を見ているように感じた。
そして、目が合った(正確には目がないのでそう言えないのだろうが)と感じた瞬間、それは離れの方へとくるりと身を反転させて走っていった。
私は身をこわばらせ、硬直していたが不審者かもしれないという不安から、おそるおそる廊下へ移動し、離れの方を覗き込んだ。
離れは昼間はさんさんと日が差し込んで明るいが、夜は破れた障子や天井の雨漏り跡がなんとも不気味で、大きなお仏壇がなんとも言えぬ重圧感を出していた。
誰もいない。
先程の白い影はなんの形跡も残さずに消え去ってしまっていた。
その後は流石に一人になる気は起きず、普段はほとんど近寄らないアル中の祖父が眠るリビングへと入っていった。起きていたらウザ絡みされるのが嫌だったのだが、そうも言っていられなかった。
その後、その影に会うことはなかったが、トイレに行くたびに会うのではないかとびくびくし続けたのは言うまでもない。