備忘録~写真~

昔のはなしである。

 

私が小学生ぐらいの時だっただろうか。父がカメラを趣味にしていたこともあり、うちには本格的なカメラがいくつか置いてあった。当時はポラロイド最盛期で、自撮なるものが出始めてきていた。面白そうだと思った私は、試しに父のその本格的なカメラで己を撮ってみようと思い立ったのである。

 

さて、いざカメラで撮影をと思ったものの、片手で持つにはどうにも重い。落とすなんてもっての他である。そこで私は考え、一つの答えに行き着いた。鏡に映った自分を撮ればいいのではないかと。

顔の前でカメラを構えれば、顔が写らない。そこで私はファインダーを覗き込むことなく、顔より上の位置にカメラを構えて撮ろうとしたのである。

 

結果としては惨敗で、頭の天辺辺りしか写っていなかった。しかもそれさえもピントが合っておらず、ぼけぼけである。では、何にピントが合っていたのか。

 

当時の記憶が曖昧ではっきりしないのだが、背後にある部屋のドアが開いていたようで、鏡越しにドアの隙間が写っていた。そして、肝心のピントはその隙間に合っていたのである。そこには、沢山の顔が部屋を覗き込む様子が写っていた。

 

人間ではない。一目見てそうわかる有象無象が、文字通り首を長く伸ばしてこちらを覗き込んでいた。肩は写っていないのに、首だけがひょろりと長く、頭はドアの上部にまで至っている。肌色は不自然に白く、私の頭皮に対しても随分と白い。首の長さに多少長短はあれども、そんな顔たちが4つほどドアの隙間からこちらを見ていた。

 

現像するまでは全く気付かず、当時はフィルムを使い切ってからカメラ屋さんに持っていってようやく写真が手に入るといった工程を経ていた為、そもそも写真の存在を忘れていた。なんだこの写真?と当時はいぶかしげに思ったものだが、そこに写っている奇妙なものに気付いた瞬間、その写真の意味が子どもの失敗から大きく変わってしまったのを感じた。

 

その写真については、もう一つ話しがある。

 

気味が悪いながらも、捨ててなにか支障があっては困るので、私はその写真を別の写真の裏に重ねて、見えないようにアルバムに保存していた。しかし、いつの間にかなくなっていたのである。

 

表側にしていた写真はある。しかしそれをどけてもその写真はない。処分はもちろんしていない。

 

一体、あの写真は何処に行ってしまったのか、いまでも時々思い出してはぞっとするのであった。