黒曜石の孤独

彼女と会うたびに、私は彼女に深淵を見る。

 

彼女はとても素敵な女性だ。笑顔は少ないが、気遣いやで優しさに溢れた態度で、不平不満を愚痴ることなどなく、いつも努力を欠かさない。理論的な思考はいつでもすがすがしく、己の意見をきちんと説明できる知能を持ち、それによって相手を傷つけない思いやりも併せ持っている。

それでいて、非常に優美であると感じるのは、彼女は努力の痕跡をまったく人に見せようとしないからだ。

 

彼女は美しい、孤高の人だ。

 

時折みせる彼女の深い孤独は、私を魅了するに余りあるものだった。黒曜石のように滑らかで、時に人を傷つけてしまうほどに鋭角。時に欠点とも言われるそれは、私にとってはただただ美しいとしか感じ得ないものであった。

彼女は私にとって理想であり、崇高で尊い存在であった。

 

それは十年経ついまでも変わる事は無く、むしろますますそれは加熱していく一方であった。私は彼女の理解者でいたいと切望しながらも、その孤独感を愛しているが故に必要以上には踏み込まないようにしていたように思う。

それはとても残酷な行為であることを知りながら、私はただただ己の欲のままに彼女と共にあった。彼女を本当に孤独にしていたのは私だったのかもしれない。

 

彼女は時折、私に寂しいと言った。私は何も言わずに彼女をその時だけ抱きしめた。私は私自身さえも、彼女の孤独を壊す人物を許せなかった。しかしどうしても、彼女の近くにいたいという欲求を我慢できないことがあったのだ。

 

私はとても残酷な人間だ。とてつもない屑だ。本来ならば彼女の近くに居られないような人間だ。それでも、離れることができない傲慢な豚だ。

 

私は彼女に恋をしているんだと思う。しかし、それは愛になりえないあまりにも自己中心的なものだ。

私はこのままでいたいと願いながらも、どこかで彼女に断罪される日を待ち望んでいるのかもしれない。

 

その時までは、どうか彼女の一番近くに居るのが自分であるようにと祈らずにはいられない。

 

 

 

一気に書き留めると、ぱたりと日記を閉じた。それは現実とも夢想ともつかない、ほんの少しの言葉遊び。孤独が胸を突き刺す度、美しいものを目にする度、心が大きく震える度、開いては取り留めなく言葉を綴った。それは誰かに対しての届かないラブレターのようなものだったのかもしれない。

そうして、眠れない夜が明けて朝が来る。ゆっくりと布団に入ってほんの少しの惰眠をむさぼる時だけが、唯一安心できる。

おやすみなさい。よい夢を。